香川県丸亀市の弁護士・田岡直博と佐藤倫子の法律事務所です。

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香川県丸亀市の弁護士ブログ
お城の見える窓から

○○アイスクリーム事件(岡山地判平成25年3月14日判例時報2196号99頁)

岡山では有名な某ショッピングセンター内の「○○アイスクリーム」の売り場で,女性客が床に落ちていたアイスクリームで足を滑らせて転倒し,怪我をしたという事件です。某ショッピングセンター運営会社に対し,862万円余りの賠償が命じられています(過失相殺2割)。

注目は,某ショッピングセンターの予見可能性を認めた理由です。判決は,「本件事故当日は,本件売場において,『○○の日』として一部のアイスクリームが値引きされて販売されており,また,同日はハロウィンで もあったこと」などから「本件売場でアイスクリームを購入した顧客が本件売場付近の通路上でこれを食べ歩くなどし,その際に床面にアイスクリームの一部を落とし,これにより上記通路の床面が滑りやすくなることがあることは容易に予想される」と認定しました。

その上で,「本件店舗を運営する被告としては,顧客に対する信義則に基づく安全管理上の義務として,少なくとも多数の顧客が本件売場を訪れることが予想される『○○の 日』については,本件売場付近に十分な飲食スペースを設けた上で顧客に対しそこで飲食をするよう誘導したり,外部の清掃業者に対する清掃の委託を閉店時間 まで延長したり被告の従業員による本件売場周辺の巡回を強化したりするなどして,本件売場付近の通路の床面にアイスクリームが落下した状況が生じないようにすべき義務を負っていた」と判断しました。

判決としては,一般的に予見可能性を認めてしまうと,運営会社の責任が重くなりすぎると考えたのでしょう。あくまで本件は例外的な事例であることを明確にするために,本件事故当日(10月31日)が『○○の日』であり,かつ,ハロウィンであったことを強調したものと思われます。 これが「○○アイスクリーム」でなく,「○○製麺」のうどんで足を滑らせた事例であったら,異なる判断になった可能性もあると言えましょう。

(田岡)
| 2014.04.06 Sunday|判例紹介comments(0)|-|

職員間の交際に介入するのは違法事件(福岡高判平成25年7月30日)

 福岡高判平成25年7月30日は,Y市の総務課長が「あいつ(原告)は危険人物だぞ。これまでのたくさんの女性を泣かせてきた。Y市のドン・ファンだ」などと言ったという事案につき,国家賠償法1条に基づき,Y市が原告に対し賠償責任を負うと判断された事例です(ただし,賠償額は33万円)。

 判時2201号69頁の表題は「市の課長が職員間の交際に介入する言動が,職員の私生活に対する不当な介入であって,国家賠償法上違法とされた」と説明されており,「交際に介入する言動」のみが違法とされたかのように読めます。他方,無記名解説では「パワーハラスメントを受けた」とされており,パワハラという評価です。しかし,本文では「誹謗中傷」「名誉毀損」「人格権侵害」という表現が用いられており,こちらの方がしっくりきます。単に「交際に介入した」というよりは,その発言内容が「誹謗中傷」「名誉毀損」「人格権侵害」であるからこそ,国家賠償法上の責任が認められたとみるべきでしょう。

 不思議なのは,なぜY市を被告にしたのかという点です。総務課長を被告にすることも可能であったと思われるのに,Y市だけを被告にした理由は,解説を読んでもよく分かりません。しかし,本文を読むと,原告は「総務課の不法行為」を問題にしており,その中で,総務課が故意に公務災害の申請を妨害しようとしたと主張していたことが伺われます。ここからは推測になりますが,原告はうつ病の発症が「公務上の災害」であると主張するために,総務課長の言動がY市総務課長の職務執行につきなされたことを主張する必要があったのかもしれません。


(田岡)
| 2014.02.07 Friday|判例紹介comments(0)|-|

平野区市営住宅殺人事件(大阪高判平成25年2月26日)

 平成25年2月26日,大阪高裁は,検察官の求刑(懲役16年)を上回る懲役20年に処した大阪地裁の原判決(裁判員裁判)を破棄し,懲役14年を言い渡しました。
 
 原判決は,約30年間引きこもりの生活を送っていた被告人(のちにアスペルガー障害の診断を受けています。)が,自立を促す姉を殺害した殺人事件について,「被告人にアスペルガー症候群という精神障害が認められることが影響している」ことは認めながら,他方で,「被告人が供述するような動機に基づいて被害者を殺害することは,社会に到底受け入れられない犯罪である」「最終的には自分の意思で本件犯行に踏み切ったといえる」ことから,「本件犯行に関するアスペルガー症候群の影響を量刑上大きく考慮することは相当ではない」と判示していました。

 また,反省の態度や社会内での受け皿についても,「被告人が十分に反省する態度を示すことができないことにはアスペルガー症候群の影響があ(る)」ことは認めながら,他方で,「十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば,そのころ被告人と接点を持つ者の中で,被告人の意に沿わない者に対して,被告人が本件と同様の犯行に及ぶことが心配される。」「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし,その見込みもないという現状の下では,再犯のおそれが更に強く心配されると言わざるを得(ない)」と判示していました。

 この原判決に対しては,日弁連や発達障害者の支援団体から,多数の抗議声明が発表されていました。たとえば,日弁連の会長談話では,第1に「行為者に対する責任非難を刑罰の根拠とする責任主義の大原則に反する」,第2に「発達障害に対する無理解と偏見の存在を指摘せざるを得ない」,第3に「長期収容によって発達障害が改善されることは期待できない」などと指摘されていました。

 ここまで非難を集めた裁判員裁判の判決というのも,珍しいですね。裁判員裁判であっても,判決を書くのは裁判官ですから,普通は控訴審で破棄されないように,当たり障りのない判決理由にするものですが,「許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり,そうすることが,社会秩序の維持にも資する」と言い切っている当たりは,一線を越えてしまった感があります。

 控訴審である大阪高裁では,検察官が量刑不当の控訴理由について「しかるべく」,つまり,よき取りはからってください(その趣旨は,原審の求刑である懲役16年が相当であるということでしょう。)という答弁をしていたことから,原判決が破棄されることはほぼ確実とみられていましたが,原判決に対しどのような評価を下すのかが注目されていました。

 大阪高裁は,法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反の主張は排斥した上で,本命とみられる量刑不当の主張について,「本件の経緯や動機形成過程へのアスペルガー障害の影響の点は本件犯行の実体を理解する上で不可欠な要素であり,犯罪行為に対する責任避難の程度に影響するものとして,犯情を評価する上で相当程度考慮すべき事情と認められる」と判示してています。

 また,反省の態度や社会内での受け皿についても,「十分とはいえないとしてもそれなりの反省を深めつつあるという評価も可能である。少なくとも再犯可能性を推認させるほどに被告人の反省が乏しい状況にあるとはいえない」「各都道府県に設置された地域定着支援センターなどの公的機関等による一定の対応がなされており,およそ社会内でアスペルガー障害に対応できる受皿がないとはいえない」などと判示されています。

 その上で,「このような犯情をもとに,上記の一般情状事実をも考慮して,主文の刑を量定した」として,懲役14年に処した理由を説明しています。

 このように「犯情」により刑の幅を定め,その刑の幅のなかで「一般情状」を考慮するという考え方は,すでに司法研究(司法研修所編『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』)でも示されていたところであり,基本的には,妥当な考え方といえるでしょう。今回の判決は,その中でも,精神障害の影響という事実が「犯情」に属し,刑の幅を定めるに当たって考慮されるべきことを明示したことに,意義があるように思われます。

 すなわち,これまでは精神障害の影響が「一般情状」のように扱われることが多く,精神障害の影響があっても,犯行動機は短絡的である,犯行態様は悪質であるなどとして,犯情は悪いと評価され,刑の幅自体が重くなってしまうので,その幅の中で,精神障害の影響を考慮しても,十分に反省していないことや社会内の受け皿がないことを考慮すると重視できないとされるため,トータルでみると「刑をかなり重くして,すこし軽くする」ので,結果として重くなることが多かったように思われます。

 しかし,このような考え方は,心神耗弱者の刑を減軽すると規定している刑法39条とは相容れないように思われます。すでに,心神耗弱の場合には「通常とは別の責任刑の枠の中で被告人の刑を考える」必要がある(大阪地判平成22年10月4日),「犯行態様が凄惨を極めていることや,動機が短絡的であることなどについても,病気の影響が強かったからこそである」から「そのまま量刑に反映させることはでき(ない)」(横浜地判平成23年9月15日)という判断が示されていたところではありましたが,今回の判決は,(心神耗弱に至らない)精神障害の影響が「犯情」に位置づけられ,刑の幅を決めるに当たって
考慮されるべきことを示した点において,意義があるように思われます。


日弁連 発達障害のある被告人による実姉刺殺事件の大阪地裁判決に関する会長談話
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120810_3.html

(田岡)
| 2013.03.01 Friday|判例紹介comments(0)|-|

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