香川県丸亀市の弁護士・田岡直博と佐藤倫子の法律事務所です。

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香川県丸亀市の弁護士ブログ
お城の見える窓から

いわゆる「テロ等準備罪」はテロ対策の法案ではありません

 新聞を読んでいたら,いわゆる「テロ等準備罪」は,テロ対策のための法案だから,東京オリンピックの開催のために必要だと思っていた,という有識者?のインタビューが載っていました。

 本当にそんな説明を信じている有識者?がいたんだなと思って,ちょっと驚きました。 

 たぶん,条文を読んだことがなかったのでしょう。

 

 気になって調べてみると,「共謀罪」と「テロ等準備罪」のどちらの用語を使うかで,世論調査の結果にかなり差があるようです(「共謀罪」だと反対が増えるが,「テロ等準備罪」だと賛成が増えるそうです)。

 みなさん,テロ対策だと賛成なんですね(私も,テロ対策は重要だと思います)。

 

 しかし,この法案に対する賛否は別にして,法律家の目から見て,これはテロ対策のための法案ではありません。組織犯罪対策(暴力団対策)のための法案です。

 そもそも,この法案は「組織犯罪処罰法」の一部改正案です。もともとは「共謀罪」と呼ばれていました。

 過去3回提出されて,3回廃案になっています。政府は,TOC条約の批准のために必要だと説明してきました。TOC条約は,テロ対策ではなく,マフィア対策,すなわち組織犯罪対策のための条約です。

 今回も閣議決定されるまでは「テロ」の用語はありませんでした。ところが,今回,政府が,閣議決定で「組織的犯罪集団」の前に「テロリズム集団その他の」を付け加えて,「テロ等準備罪」と呼ぶことにしたわけです。

 しかし,「Aその他のB」という場合,AはBの例示に過ぎませんから,Aに特段の意味はありません。実際に,国会答弁でも,質問主意書に対する答弁でも,「テロリズム集団」には特段の意味はないと明言されています。

 したがって,これはテロ対策のための法案ではありません。

 「組織的犯罪集団」の活動として行われる「対象犯罪」の「計画」を罰するための法案です。

 組織的犯罪集団の中に「テロリズム集団」が入るかもしれませんが,少なくとも,それを主たる目的にした法案ではないのです。

 おそらく,閣議決定までは,立案担当者もそんなことは考えていなかったのではないでしょうか。だからこそ,277あるとされる「対象犯罪」に森林法違反が入っているわけです。暴力団は,松茸泥棒をしますからね。

 

 もちろん,暴力団対策のために必要だという意見もあるかもしれません。実際に,公聴会において賛成意見を述べた学者や弁護士は,そのような意見でした(賛成意見を述べた弁護士は,民事介入暴力対策に取り組む弁護士でした。)。

 しかし,それなら,素直に「組織犯罪計画罪」と言えば,よいのではないでしょうか。これを「テロ等準備罪」と呼ぶのは,「テロ」の「準備行為」を罪する法案なのだという誤解を招くおそれがあります。

 

 極端な例ですが,仮に「チワワその他の小型犬」の飼育を禁止する法律ができたと仮定します。この場合,チワワは小型犬の例示ですから,特段の意味はありません。禁止の対象は「小型犬」の飼育です。

 しかし,これを「チワワ等飼育禁止罪」と呼んだら,チワワの飼育だけが禁止されているのかな,と誤解しますよね。

 また,「小型犬」という要件は曖昧です。トイプードルは入るでしょうけど,豆柴はどうでしょうか。人によって,判断が分かれるかもしれません。

 そうすると,もう犬を飼うのはやめて,猫にしよう,と考える人が増えるかもしれません。猫なら,「小型犬」に入りませんからね。これが,萎縮効果です。
 

 政府は,テロ対策という説明で押し通すつもりのようですが,さすがにはそれは無理があるんじゃないでしょうか。

 せめて,これが組織犯罪対策(暴力団対策)の法案であることを前提とした上で,この法案が必要か,濫用のおそれがないかを議論してもらいたいと思います。

(田岡)

| 2017.06.09 Friday|コラムcomments(0)|-|

法律書のマニュアル化を憂う

 最近,法律書ないし法律論文の校正や査読を依頼される機会が増えた。
 また,昨年から「季刊刑事弁護」という雑誌の編集委員を務めている。
 そのような立場になって思うのは,安易な文章が増えたということだ。

 法曹人口が増加し,新人弁護士が増えたこともあるのだろう。マニュアル流行である。
 「相談を受けるときはメモをとりましょう」「わからないことがあったらメーリングリストで質問しましょう」
 ーー小学生でもあるまいし,こんなことをわざわざ書く必要があるのか。読者を馬鹿にしているのか!?と言いたくなる(※これはあくまで例えであり,実際にはもう少し法律書らしいことが書いてあります)。

 文章をわかりやすくすることと,内容のレベルを落とすことはまったく別物だ。

 われわれ弁護士は言葉を使う商売だ。
 曲がりなりにも弁護士を相手に文章を書くならば,最低限の質は維持してもらいたい。
 法律書のマニュアル化は知性の退化であり,業界の堕落だと思う。

(田岡)

| 2017.01.10 Tuesday|コラムcomments(0)|-|

新聞はいつから検察庁の広報誌になったのか

 私はひまわり基金法律事務所(公設事務所)の所長や,裁判員裁判センターの委員長を務めていた経験があるから,弁護士の中ではテレビ・新聞の取材を受ける経験が多い方であったと思うし,テレビ局,新聞社あるいは番組制作会社の知り合いはたくさんいる。その経験から言えば,テレビ局/新聞社よりも,記者の質の方がばらつきが大きく,どこの局/社にも,いい記者もいれば,悪い記者もいる。だから,特定の新聞社の悪口を言うつもりはないが,最近,ある特定の新聞社の報道により大変不愉快な思いをした。
 私たちが取り扱う事件は,民事事件であれ,刑事事件であれ,対立当事者がいる。民事事件であれば原告と被告では言い分が違うのは当たり前だし,刑事事件であれば検察官と弁護人の言い分が真っ向から対立することも珍しくない。われわれの主張が絶対に正しいとは言わないが,せめて両方の言い分を公平に載せてもらいたい。検察庁の言い分は載せるのに,弁護人に取材もしないなどというのは,不公平だ。いや,公平というよりは,「不公正」であると言った方がよい。異なる見方があることを伝えなければ,読者を誤った判断に導く危険がある。ひいては,誤った世論を形成し,裁判所の判断に影響しないとも言えない。
 もちろん,普通の記者はこんなことはしない。私も同じ新聞社の別の記者に相談してみたが,「弁護人に取材するのはイロハのイ」であるという。そうすると,この記事を書いた記者は,イロハのイを知らなかったということだ。あるいは,知りながら,あえて弁護人には取材をしなかったということだ。よほど忘れっぽい人であるか,無能な人なのだろう。
 これは,記者個人の責任なのだろうか。私はそうは思わない。新聞は記者ひとりではできない。デスクは何をしていたのか。あがってきた原稿を見て,疑問を持たなかったのだろうか。なぜ追加取材を命じなかったのか。この事件は何年も係属している事件だ。一刻を争って掲載しなければならない事件ではない。なぜ掲載を見合わせなかったのか。掲載した後でもいい。なぜ追加取材をして,続報を載せなかったのか。そればかりか,1回目の焼き直しのような記事をまた載せたのか。理解に苦しむ。 
紫陽花
(田岡)
| 2015.06.21 Sunday|コラムcomments(0)|-|

過払い年金の返還請求

 「10年以上にわたって年金を払い過ぎていた」として,企業年金連合会から過払い年金の返還を求められている,という相談を受けました。知り合いの弁護士に聞いて見たら,他にも同じように請求を受けている方がいらっしゃるようです。

 この問題は,国の年金記録と,厚生年金基金の記録とが一致しないために生じているようです。「年金記録が一致していれば,支給停止になっていたはずである」ということは理屈では理解できても,「いまさら10年以上もさかのぼって返還せよと求められるのは心情的に納得できない」という方が多いのではないでしょうか。

 インターネットでは「全額返還義務を負う」という回答しか見当たりませんでしたが,必ずしもそうではないようです。私のご相談者は良い条件で解決できました。悩んでおられる方は,あきらめずに,社会保険労務士か,弁護士に相談されることをお勧めします。

(田岡)
| 2015.02.06 Friday|コラムcomments(1)|-|

本年もよろしくお願い致します


 法律事務所を訪れる方は,みなそれぞれに悩みを抱えておられます。
 この年末年始を穏やかに過ごせた方も,そうでない方もいらっしゃったことと存じます。

 本年がみなさまにとって再出発の年となりますよう,そして,私たちの事務所がそのお役に立てますよう願ってやみません。
 本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

聖母子像

(田岡)

| 2015.01.03 Saturday|コラムcomments(0)|-|

すっかり秋ですね。

 稲穂が頭を垂れ,お囃子が聞こえる季節になりました。すっかり,秋ですね。
 急に寒くなったせいか,体調を崩している方も多いようです。皆様もご自愛ください(私は花粉症のせいでくしゃみが多いですが,といまのところ健康です。)。

(田岡)
| 2014.09.29 Monday|コラムcomments(0)|-|

絶望の裁判所

 ある裁判官が『絶望の裁判所』という暴露本を出版して話題を呼んだが,私も日々このことを痛感している。まさしく『絶望』の裁判所であると。

 その意味は,こういうことだ。

 裁判所を訪ねる人は,多かれ少なかれ,裁判所に『期待』をしている。裁判を起こせば,自分の権利が認められるはずである。自分の権利が実現するはずである。裁判所こそは正義のよりどころであり,最後の砦であると。

 しかし,実際に裁判を起こしてみると,そのような期待はことごとく裏切られる。

 裁判所に訴状を提出すると,最初に期日が開かれるのは1か月以上も先だ。最初の期日には,被告は当然のように欠席する。本来は理由付きの認否を義務付けられているはずなのに,「追って認否する」という人を食ったような答弁書が出るだけだ。実質的な審理は第2回から。しかし,この期日に何をするかと言えば,裁判官と代理人が期日の調整をするだけだ。ものの5分もかからない。こうしてのらりくらりと引き延ばされ,判決が出る頃には,半年も1年も経っている。

 お金の問題ならまだいい。子どもの引渡しであるとか,物の引渡しであるとか,こちらは急いでいるのに,とにかく遅い。

 多くの原告は,こうした裁判の現実に「絶望」し,あきらめて不本意な和解を強いられることになる。結局いまの裁判の和解率の高さというのは,多くの場合,裁判の遅延に苛立ち,絶望し,あきらめて,消極的に選択された結果に過ぎない。もし訴えを起こしてすぐに判決を出してもらえるなら,和解ではなく判決を選択する率は飛躍的に高まるだろう(実際に簡裁の交通事故事件はすぐに尋問期日が入るため判決率が高い。そして,ほとんどが控訴なく確定している。)。

 もちろん,裁判所も役所であるから,物的・人的態勢に限界があることは認める。予算がなければ,拡充はできない。そして,多くの裁判所職員と裁判官は忙しい中で,努力をしている。個人的には,良い人が多い。私も,そのことは否定しない。

 しかし,裁判の現状がこのままでよいとは思わない。ドラスティックな改革はできなくとも,少しずつ改善していくことはできるはずだ。例えば,書面の提出期限や期日指定などは,弁護士が努力しさえすればいますぐにでも改善できることだろう。私はまだ絶望したくない。

(田岡)
| 2014.09.19 Friday|コラムcomments(0)|-|

なぜ無資格者は報酬が高いのか

 弁護士資格を持たないのに過払い金の返還訴訟を代行し,125人から4990万円の報酬を得ていたとして,3人が広島県警に逮捕されたという報道がなされています。

 言うまでもないことですが,弁護士資格がないのに示談交渉や訴訟を代行して,報酬を得ることは違法です。ときどき,過払い金の返還請求や不貞の相手方に対する慰謝料請求,さらには離婚請求を代行するという広告を見かけますが,(弁護士が関与していない限り)これらは明らかに違法です。弁護士が広告を出す場合には,所属弁護士会,弁護士の氏名等を表示しなければなりませんので,所属弁護士会,弁護士の氏名が記載されていない広告は,うさんくさいと思ってよいでしょう。

 ただ,それよりも驚くのが,無資格者の報酬額が高いことです。読売新聞の記事では「返還金の30%を報酬として受け取っていた」とされていますが,「報酬は一般的な相場とされる金額だったため発覚しにくかった」というコメントが付されています。誰のコメントか知りませんが,過払い金の返還訴訟で,返還金の30%は弁護士であっても高い方でしょう。あるいは,広島ではこれが「一般的な相場とされる金額」なのでしょうか。

 現在では弁護士会の報酬基準規程は廃止されていますが,10年前までは基準がありました。それによると,民事訴訟の場合の報酬金は,300万円以下の場合,着手金は経済的利益の8%,報酬金は16%でした。300万円を超えて3000万円以下の場合は,着手金は5%,報酬金は10%です。多くの法律事務所は,この基準を参考にしながら事情に応じて増減しています。つまり,弁護士の報酬は最高でも合計24%に過ぎないのです(法テラスの民事法律扶助を利用すれば,20%程度になります。)。過払い金の返還訴訟の場合には完全成功報酬制で受任することがありますが,その場合でも報酬金を増額する理由はないでしょう。

 これだけ報酬を支払っても無資格者に依頼する人がいたことに驚きますが,得てして無資格者の報酬というのは高額になるものです。それだけ,世間では弁護士が高額な報酬を得ていると誤解されているのでしょう。また,ニセ医者ほど親切であるため発覚しづらい,というのも定説と言ってよいと思われます。つまり,世間では弁護士が高額な報酬をとり,また,不親切であると誤解されているため(あるいは,誤解でないのかもしれませんが),そこに無資格者が暗躍する余地があるということでしょう。弁護士・弁護士会はもっと情報を公開し,相談しやすくする工夫が必要ではないでしょうか。

(田岡)
| 2014.07.27 Sunday|コラムcomments(0)|-|

供述調書は,供述を録取した書面ではない

 警察官は,被疑者や証人の取調べを行ったときは,供述調書(供述録取書)を作成しなければならない。このことは,警察官が守るべき心構えを定めた犯罪捜査規範166〜182条に明記されている。しかし,現実には,供述調書は被疑者等の供述をそのまま録取した書面ではない。その実態は,警察官が被疑者等の話をまとめた報告書である。

 なぜ,報告書なのか。それは上司の決済を受けなければならないからである。警察官は取調べを行うと供述調書を作成して検察官に送致する。検察官はあらかじめ供述調書を読み込み,予断をもって取調べを行い,更に要約した供述調書を作成する。そして,上司の決済に回すのである。そのとき,余計な情報が入っていたり,冗長な文章では決済に時間がかかりすぎる。決済官は忙しいのである。そのため,決済に必要な情報だけを取捨選択し,手際よくまとめた供述調書が求められる。

 私は弁護人として刑事事件に関わることが多いので,私自身が取調べを受けたり,取調べに同行した経験は多くはない。しかし,その少ない経験の限りで言えば,供述をそのまま録取してもらえたと感じたことは一度もない。

 例えば,こんな経験がある。親族の成年後見人が本人の財産を使い込んだために解任され,私が後任の成年後見人に選任された。しばらくして,警察から私の供述調書を作成したいという連絡があった。担当の警察官は,よく知った人であった。私が警察署に出向くと,警察官は部屋に入ってくるなり「もう作っておきました。」と言って,供述調書を差し出して来た。私はまだ何も「供述」していないのに,供述調書の末尾には「供述を録取した」ことに間違いないと書かれていた。まったく悪い冗談である。

 この話をすると,それは警察だからだろう,検察庁はもっとしっかりやってるよ,と言う人がいる。しかし,本当にそうだろうか。先日,こんなこともあった。私は被害者の代理人として,検察庁に同行した。被害者の供述調書を作成するためだ。検察官は,私をいったん部屋から退席させた。私が廊下で待っていると,被害者が出て来て,こう言った。「私は法律どおり処分してくださいと言ったのですが,寛大な処分をお願いします,と書かれてしまいました。」検察官は,この事件をよほど不起訴にしたかったのだろう。

 たしかに,この検察官は副検事だった(副検事は,司法試験に合格した法曹ではない。)。しかし,警察官や副検事は供述を録取しないのに,正検事は供述を録取した書面を作っている,とどうして言えるのか。弁護人として活動していると,被疑者等からしばしば次のような訴えを聞く。「供述調書は,被疑者の言い分をそのまま書く書面じゃない。検察官が作る書面だ。だから,検察官が最後に署名するのだ。」実際のところ,これが検察官の本音であると思うし,供述調書の実態をよく表していると思う。

 私は,だから警察官や検察官がよくないと批判するつもりはない。決済制度がある限り,書面で報告しないといけないう事情は分かるからだ。しかし,実態が担当者の報告書なのであれば,供述調書(供述録取書)というネーミングはもうやめたらどうか。このネーミングだと,まるで供述をそのまま録取したかのような印象を与える。とくに取調べの実情に疎い裁判官や裁判員が,うっかり誤解するといけない。

 この度,法制審議会が,取調の録音録画(可視化)を法制化することを決めた。対象事件が裁判員裁判対象事件に限られており,はなはだ不十分ではあるが,可視化を求めてきた日弁連の立場からすれば一歩前進であることは間違いない。可視化の範囲が広がれば,少なくとも供述した内容と異なる供述調書が作成されることはなくなるだろうし,供述調書の内容が正しい場合であっても,録音録画に比べれば正確性が劣ることは明らかであるから,自ずから供述調書の重要性は低くなってゆくだろう。

(田岡)
| 2014.07.25 Friday|コラムcomments(0)|-|

見通しの説明

 「見通し」の説明ほど,難しいものはない。見通しは,依頼者が支払う対価がそれに見合ったものであるかどうかを判断するために不可欠な情報だ。民事裁判であれば,裁判を起こして勝てるのか負けるのか,勝てたとしていくら回収できるのか。刑事事件であれば,有罪になるのか無罪になるのか,有罪になるとしたら懲役何年になるのか(あるいは,執行猶予が付くのか)が最大の関心事だ。これなくして,弁護士に依頼するかどうかは決められない。そこで,弁護士職務基本規程29条1項は,弁護士は見通しと報酬及び費用を説明しなければならないと規定している。

 見通しとは,どのようなものか。例えば,100万円を知人に貸している場合に,知人を相手に訴訟を起こして,50万円を回収できる可能性が50%あるとすれば,期待値は25万円になる。このような見通しが説明されれば,依頼者は,自分が支払う弁護士費用や実費,労力などを考えて,弁護士に依頼するかどうかを判断すればよい,ということになる。

 しかし,これはあくまで比喩である。現実には,見通しは数値化できるものではない。ひとつとして同じ事件はないから,統計的に見て勝てる可能性が高いからと言って,その事件でも勝てるとは限らない。刑事事件で言えば,有罪率が99%であるからと言って,すべての刑事事件で無罪になる可能性が1%しかない,ということにはならない。医療のように「この手術を受ければ,5年後生存率が○%」というように統計的なデータを示すことは難しい。

 また,依頼を受ける時点では,情報が限られている。依頼者の話がすべて正しければ100%勝てるという場合でも,現実に裁判を起こしてみたら,相手方からそれと異なる証拠が出され敗訴した,という話はよく聞く。弁護士職務基本規程29条1項も「依頼者から得た情報に基づき」としており,見通しの説明に限界があることを認めている(なお,有利な結果を請け負い,又は保証することは,同条2項で禁止されている。したがって,「絶対に勝てる」という説明をする弁護士には要注意である。)。

 ただ,気になるのは,見通しの説明は正しくなされているのか?ということである。私は法テラスの新人弁護士の研修を長く担当してきたが,負ける可能性が高い事件でも,「勝てる可能性がないとは言えない」「やってみる価値はある」という説明をする弁護士が少なくなかった。しかし,「ないとは言えない」とか「価値がある」という説明では,依頼者は,現実にどの程度の可能性があるのか分からないだろう。結果的に敗訴した場合,「聞いていた話と違う」とクレームが出るかもしれない。

 やはり,見通しは,できる限り正確に説明すべきだ。私は,敗訴する可能性が高い事件は,「ほぼ間違いなく負けます」「○○ということが証明できない限り,無理です」とはっきり説明するようにしている。依頼者からすれば,自分の方が不利だと言われるわけだから,いい気はしないだろう。しかし,ここで甘い見通しを説明しても,後でトラブルになるだけだ。

 また,私は,顧問契約等がない限り,全件で,委任契約書と見積書を作成している。委任契約書は弁護士職務基本規程30条で義務づけられているから当然だが,香川の実情を見ると,それすら作成しない弁護士が少なくないようだ。まして,見積書を交付している弁護士がどれほどいるかは分からない。しかし,書面で,見通しと報酬を明らかにしておくことにより,後のトラブルを防ぐことができる。

 残念なのは,弁護士が誤った説明をしているのではないか?という事例が散見されることだ。例えば,執行猶予が確実な事件で,実刑になるリスクを強調し,高額の成功報酬をとるとか,自己破産の事件で,免責不許可のリスクを強調し,高額の成功報酬をとる,というような事例だ。これらは嘘とまでは言えないが,説明の仕方いかんでは依頼者が誤解するおそれが高く,きわめて不誠実な態度だと思う。

(田岡)
| 2014.06.24 Tuesday|コラムcomments(0)|-|

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