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「分かりやすい審理」とは?

 裁判員法は、裁判官、検察官および弁護人は、裁判員が理解できるように、審理を「分かりやすい」ものにしなければならないと定めています(同51条)。どんなに正しい主張でも、それが事実認定者である裁判官・裁判員に理解されなければ意味がないわけですから、主張を分かりやすいものにする工夫が必要であることに異存はありません。しかし、「分かりやすさ」と「正しさ」はしばしば両立させることが難しく、ときに相反することもあります。

 たとえば、精神鑑定を例に取れば、統合失調症や大うつ病エピソードといった精神障害は、それぞれ国際的な診断基準に定められているわけですが、それをそのままプレゼンあるいは証人尋問で用いたのでは、裁判員に理解されません。そこで、たとえば妄想を「あり得ないことを確信しており、訂正できないこと」などと言い換えるわけですが、言い換えには必ず嘘が潜んでおり、不正確になることは否めません。

 もちろん、よく準備され、洗練されたプレゼンは、素人にも分かりやすいものであり、必ずしも「正しい」ものが「分かりづらい」とは限らないこともまた事実です(私が見る限り、準備にかける時間と熱意が、プレゼンの優劣を決定するように見受けられます。)。つまり。そこで目指されている「正しさ」が、必ずしも専門的には正しいものではないとしても、その本質を捉えているものである限り、分かりやすくすることは十分に可能であるように思われるのです。

 これを弁護士に引きつけていえば、われわれ専門家が、専門家のコミュニティの中で、専門用語でやりとりしていればすむ時代は終わったのであり、依頼者(あるいは、裁判員)に理解されなければ意味がない,と言えないでしょうか。そもそも、裁判員に理解できないような説明しかしない医師は、臨床現場でも患者に理解される説明をできないでしょうし、同様に裁判員に理解できないような弁論しかできない弁護士は、おそらく法律相談の場でも理解できる説明をしていない可能性が高いでしょう。それでは、いくら腕がよくても、依頼者(更には,国民)の信頼を勝ち得ることはできないと思うのです。

 さて、話を戻すと「分かりやすい審理」ですが、私が見る限り、これまでのところ、この問題はもっぱら裁判所の視点から語られており、検察官や弁護人といった当事者の視点が抜け落ちているのが気になります。つまり、裁判所からすれば、裁判員に理解してもらえなければ、評議ができないわけですし、判決が書けないわけですから(更に言えば、アンケートでの評価が落ちるわけですから)、何としてでも裁判員に理解してもらわなければ困るわけです(対して、弁護人は、合理的な疑問を残せば足りるわけですから、裁判員に理解されなければ理解されないでかまわないという考え方もあり得ます。)。そのため、責任能力が争われる事件であれば、事前にカンファレンスを実施し、プレゼン方式で証言させて、説明概念に基づき評議をして、判決を書くという審理になりがちです。一言で言えば、職権的な審理になりがちである、ということです。

 しかし、このような審理であれば、検察官や弁護人は要りません。カンファレンスの中で、裁判官が事前に鑑定内容を把握した上で、法廷でもプレゼン方式で証言させて、裁判所が決めた枠組みで評議するというのですから、弁護人が登場する機会はどこにもありません。もちろん、鑑定人に対し、尋問はできるでしょうが、裁判所からすれば、鑑定人に文句あるいは茶々を入れているだけであり、専門家に言いがかりを付けているようにしか見えないものです。それゆえ、検察官や弁護人にはなるべく余計なことをさせずに、裁判所主導で分かりやすい審理を実現しようという動機が働きます。それがこの職権的な審理が目指されているゆえんであります。

 私は日本司法精神医学界のシンポジウムで、分かりやすくする責任は誰にあるかと問いました。裁判所はもちろん裁判所であるといい、鑑定人は鑑定人であるというでしょうが、しかし本当にそうか。当事者主義訴訟構造をもつわが国の刑事訴訟法のもとでは、検察官と弁護人にあると考えるべきではないか(規則42条は,その主体を検察官及び弁護人と規定しています。)。もちろん、いまの弁護人のレベルでは、かえって分かりづらくなるとの批判は免れないとしても、だから裁判所や鑑定人主導で審理を分かりやすくしよう、というのは本末転倒であり、検察官と弁護人のスキルアップこそ不可欠と考えるべきである。そして、その弁護人のスキルアップのためには、鑑定人になる精神科医の先生方の協力が不可欠である、というのが私の発言の趣旨でした。

 いま同じ問題意識を共有する仲間が、精神科医と共同の勉強会に参加し、研鑽を深めています。彼らこそが、真に分かりやすい審理を実現する担い手となり得ることでしょう。

(田岡)

| 2013.08.30 Friday|コラムcomments(0)|-|

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