東京地裁で審理されていた2年越しの損害賠償命令事件がようやく結審しました。損害賠償命令事件というのは,刑事事件の判決が言い渡されたのち,犯罪被害者又はその遺族の申し立てにより,刑事事件の審理を担当した裁判所が,被告人に対し,損害賠償命令を言い渡す手続きのことです。刑事事件の記録を取り調べることにより,原則として4回までの審理で結論を出す,簡易迅速な手続きである,とされています。
それなのに,なぜ2年もかかってしまったのでしょうか。その原因は,相続欠格にあります。民法は,相続人が被相続人を死亡するに至らせた場合など一定の事由がある場合には,相続権を失うと定めています。例えば,配偶者や子を死亡させたために有罪判決が下された場合には,配偶者や子の遺産を相続することはできない,ということです。これを,相続欠格といいます。
ところが,相続欠格が効力を生じるには,有罪判決を言い渡されただけではダメで,確定する必要があるとされています。一審で有罪判決が言い渡されても,もしかしたら控訴審や上告審で破棄されて,無罪になるかもしれないからです。そのため,被告人が有罪を認めている場合であっても,判決が確定しない限り,相続権を失わないとされています。その結果,被害者の遺族が損害賠償命令を申し立てても,被告人に相続権があり,被害者の遺族には相続権がないため損害賠償命令が認められないのです。
裁判所も,さすがに正義に反すると考えたのでしょう(私もそう思います。)。判決が確定するまで,損害賠償命令事件の審理を進めないという判断をしました。その結果,判決が確定するまでの2年間,この事件はペンディングになっていたのです。その間に裁判長と右陪席裁判官は交代し,私は第二東京弁護士会から香川県弁護士会に登録替えになりました。かろうじて,左陪席裁判官が異動間際で残っており,私が東京に出張する機会がありましたので,本日,なんとか結審することができました。
無罪の可能性がある以上,有罪判決が確定するまでは相続欠格の効力が生じないとすることはやむを得ないのでしょうが,2年間も審理を行わずにペンディングにしておくというのは,制度が想定していない事態というほかありません。もちろん,被告人が希望すれば相続放棄の申述を行うことは可能ですが,相続放棄の申述期間は相続開始を知ったときから3か月以内であり,家庭裁判所に申述書や戸籍謄本などの書類を提出しなければなりません。身体拘束されている被告人がその手続きを行うことは,現実にはまれでしょう。犯罪被害者とその遺族には,その権利を行使するにも様々な障害があることを考えさせられました。
(田岡)
それなのに,なぜ2年もかかってしまったのでしょうか。その原因は,相続欠格にあります。民法は,相続人が被相続人を死亡するに至らせた場合など一定の事由がある場合には,相続権を失うと定めています。例えば,配偶者や子を死亡させたために有罪判決が下された場合には,配偶者や子の遺産を相続することはできない,ということです。これを,相続欠格といいます。
ところが,相続欠格が効力を生じるには,有罪判決を言い渡されただけではダメで,確定する必要があるとされています。一審で有罪判決が言い渡されても,もしかしたら控訴審や上告審で破棄されて,無罪になるかもしれないからです。そのため,被告人が有罪を認めている場合であっても,判決が確定しない限り,相続権を失わないとされています。その結果,被害者の遺族が損害賠償命令を申し立てても,被告人に相続権があり,被害者の遺族には相続権がないため損害賠償命令が認められないのです。
裁判所も,さすがに正義に反すると考えたのでしょう(私もそう思います。)。判決が確定するまで,損害賠償命令事件の審理を進めないという判断をしました。その結果,判決が確定するまでの2年間,この事件はペンディングになっていたのです。その間に裁判長と右陪席裁判官は交代し,私は第二東京弁護士会から香川県弁護士会に登録替えになりました。かろうじて,左陪席裁判官が異動間際で残っており,私が東京に出張する機会がありましたので,本日,なんとか結審することができました。
無罪の可能性がある以上,有罪判決が確定するまでは相続欠格の効力が生じないとすることはやむを得ないのでしょうが,2年間も審理を行わずにペンディングにしておくというのは,制度が想定していない事態というほかありません。もちろん,被告人が希望すれば相続放棄の申述を行うことは可能ですが,相続放棄の申述期間は相続開始を知ったときから3か月以内であり,家庭裁判所に申述書や戸籍謄本などの書類を提出しなければなりません。身体拘束されている被告人がその手続きを行うことは,現実にはまれでしょう。犯罪被害者とその遺族には,その権利を行使するにも様々な障害があることを考えさせられました。
(田岡)