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平野区市営住宅殺人事件(大阪高判平成25年2月26日)

 平成25年2月26日,大阪高裁は,検察官の求刑(懲役16年)を上回る懲役20年に処した大阪地裁の原判決(裁判員裁判)を破棄し,懲役14年を言い渡しました。
 
 原判決は,約30年間引きこもりの生活を送っていた被告人(のちにアスペルガー障害の診断を受けています。)が,自立を促す姉を殺害した殺人事件について,「被告人にアスペルガー症候群という精神障害が認められることが影響している」ことは認めながら,他方で,「被告人が供述するような動機に基づいて被害者を殺害することは,社会に到底受け入れられない犯罪である」「最終的には自分の意思で本件犯行に踏み切ったといえる」ことから,「本件犯行に関するアスペルガー症候群の影響を量刑上大きく考慮することは相当ではない」と判示していました。

 また,反省の態度や社会内での受け皿についても,「被告人が十分に反省する態度を示すことができないことにはアスペルガー症候群の影響があ(る)」ことは認めながら,他方で,「十分な反省のないまま被告人が社会に復帰すれば,そのころ被告人と接点を持つ者の中で,被告人の意に沿わない者に対して,被告人が本件と同様の犯行に及ぶことが心配される。」「社会内で被告人のアスペルガー症候群という精神障害に対応できる受け皿が何ら用意されていないし,その見込みもないという現状の下では,再犯のおそれが更に強く心配されると言わざるを得(ない)」と判示していました。

 この原判決に対しては,日弁連や発達障害者の支援団体から,多数の抗議声明が発表されていました。たとえば,日弁連の会長談話では,第1に「行為者に対する責任非難を刑罰の根拠とする責任主義の大原則に反する」,第2に「発達障害に対する無理解と偏見の存在を指摘せざるを得ない」,第3に「長期収容によって発達障害が改善されることは期待できない」などと指摘されていました。

 ここまで非難を集めた裁判員裁判の判決というのも,珍しいですね。裁判員裁判であっても,判決を書くのは裁判官ですから,普通は控訴審で破棄されないように,当たり障りのない判決理由にするものですが,「許される限り長期間刑務所に収容することで内省を深めさせる必要があり,そうすることが,社会秩序の維持にも資する」と言い切っている当たりは,一線を越えてしまった感があります。

 控訴審である大阪高裁では,検察官が量刑不当の控訴理由について「しかるべく」,つまり,よき取りはからってください(その趣旨は,原審の求刑である懲役16年が相当であるということでしょう。)という答弁をしていたことから,原判決が破棄されることはほぼ確実とみられていましたが,原判決に対しどのような評価を下すのかが注目されていました。

 大阪高裁は,法令適用の誤り,訴訟手続の法令違反の主張は排斥した上で,本命とみられる量刑不当の主張について,「本件の経緯や動機形成過程へのアスペルガー障害の影響の点は本件犯行の実体を理解する上で不可欠な要素であり,犯罪行為に対する責任避難の程度に影響するものとして,犯情を評価する上で相当程度考慮すべき事情と認められる」と判示してています。

 また,反省の態度や社会内での受け皿についても,「十分とはいえないとしてもそれなりの反省を深めつつあるという評価も可能である。少なくとも再犯可能性を推認させるほどに被告人の反省が乏しい状況にあるとはいえない」「各都道府県に設置された地域定着支援センターなどの公的機関等による一定の対応がなされており,およそ社会内でアスペルガー障害に対応できる受皿がないとはいえない」などと判示されています。

 その上で,「このような犯情をもとに,上記の一般情状事実をも考慮して,主文の刑を量定した」として,懲役14年に処した理由を説明しています。

 このように「犯情」により刑の幅を定め,その刑の幅のなかで「一般情状」を考慮するという考え方は,すでに司法研究(司法研修所編『裁判員裁判における量刑評議の在り方について』)でも示されていたところであり,基本的には,妥当な考え方といえるでしょう。今回の判決は,その中でも,精神障害の影響という事実が「犯情」に属し,刑の幅を定めるに当たって考慮されるべきことを明示したことに,意義があるように思われます。

 すなわち,これまでは精神障害の影響が「一般情状」のように扱われることが多く,精神障害の影響があっても,犯行動機は短絡的である,犯行態様は悪質であるなどとして,犯情は悪いと評価され,刑の幅自体が重くなってしまうので,その幅の中で,精神障害の影響を考慮しても,十分に反省していないことや社会内の受け皿がないことを考慮すると重視できないとされるため,トータルでみると「刑をかなり重くして,すこし軽くする」ので,結果として重くなることが多かったように思われます。

 しかし,このような考え方は,心神耗弱者の刑を減軽すると規定している刑法39条とは相容れないように思われます。すでに,心神耗弱の場合には「通常とは別の責任刑の枠の中で被告人の刑を考える」必要がある(大阪地判平成22年10月4日),「犯行態様が凄惨を極めていることや,動機が短絡的であることなどについても,病気の影響が強かったからこそである」から「そのまま量刑に反映させることはでき(ない)」(横浜地判平成23年9月15日)という判断が示されていたところではありましたが,今回の判決は,(心神耗弱に至らない)精神障害の影響が「犯情」に位置づけられ,刑の幅を決めるに当たって
考慮されるべきことを示した点において,意義があるように思われます。


日弁連 発達障害のある被告人による実姉刺殺事件の大阪地裁判決に関する会長談話
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2012/120810_3.html

(田岡)
| 2013.03.01 Friday|判例紹介comments(0)|-|

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